アンタッチャブルな場所
筆者の父親は、車でどこでも連れていってくれたのですが、一ヶ所だけ近づかない場所がありました。
その場所には、“祟りが起こる”と言われる松の木があるのです。
切り倒そうとすると、突然、職人さんが亡くなってしまったり、事故が起こったりするため移動できず、道路の真ん中に松の木が立っていたのです。
でも、なぜ父親は、その場所を通りたがらないのか。
筆者は不思議でたまりませんでしたhatena01.gif

父が避けていた道

ある日、気になった筆者は、酔っぱらった父にそのことを聞いてみました。

すると父は「あのあたりは、狗神(イヌガミ)を祀っているから危ないんだ。お前も近寄らない方が良い・・・」そう言ったきり黙ってしまったのです。
「イヌガミ・・・犬神家?」の一族かと思った筆者は、興味がわいて叔母さんにそのことを聞いてみたのです。
すると叔母さんは「ああ、きっとあのことだろうね」と父が小学生の時の出来事を話してくれたのです。

父は子供の頃、かなりの悪ガキで近所のガキ大将だったそうです。

ある日、少し離れた村でお祭りがあるという噂を聞きつけた父は、友達を引き連れてお祭りへと繰り出したのです。
叔母さんもお祭りと聞いて、一緒にくっついて行ったのだそうです。
当時は、車はもちろん、バスもほとんど走っていなかったので、1時間ほど歩いてようやく目的の村に到着した一行。

祭りという割には地味だったという

叔母さんは、賑やかな出店や盆踊りを期待していたらしいのですが、地味〜〜な感じで御神輿が用意され、かがり火がポツリポツリと焚かれているぐらいだったそうです。

しかも、そこは神社のような鳥居もなく、林の中に突然ぽっかりとできたような空き地。
そこには、大人たちはおろか、子供や女性など誰一人として姿が見えず、無人くん状態だったのです。
そして広場の中央に立っている一本の松の木の前に、祭壇が飾られていました。
祭壇には、鶏や魚、ウサギなどの動物や団子が供えられていたそうです。
他に見るものもなかった一行が、近寄って祭壇や、しめ縄がかけられた松の木を不思議そうに見ていると近所の子供たちがバラバラと集まってきました。
ようやく出番が来たか、と父がその子供たちにこう言ったのだそうです。
「相撲で俺が勝ったら、お前ら今日から俺の子分だ!」
当時、ガキ大将たちは、ケンカや相撲の勝敗で縄張りを広げていたのですtabako01.gif
さっそく取り組みが始まり、父は何とかその子供たち全員に勝利。
「運動したせいで腹が減っちまったなぁ」
荒い息を整えた父がそう言うと、友達の一人が祭壇に供えられていた団子を持ってきました。
「じゃあ、みんなでこれ食おうぜ!」
さっそく一個手に取った父は、ガブリ!と、団子を一口頬張りました。
「マズッ!!!」あまりの不味さに父は、団子を吐き出してしまいました。「なんだこりゃ!魚の内臓みたいな味がするぞ!!」
それを聞いた友達たちは、食べるのをやめました。
「食い物もねえし、何か戦利品になるものはねえのかよ!」父はそう言うとあたりを見回しました。

松の木には、しめ縄が巻かれていたのだが・・・

そこでふと目にとまったのが、松の木にかかっていたしめ縄でした。

「しょうがねえな、これでももらっていくか。しめ縄は相撲が強い横綱がつけるものだからな」
父はそう言うと、しめ縄を松の木から外しました。
すると突然、雷鳴が鳴り響き、どこからか

「ガルルルル〜ッ!!

ガルルルル〜ッ!!!」

と地鳴りのような音が聞こえてきたのですga-n02.gif
すると、それまで口をきかなかった近所の子供たちが、悲鳴を上げて一斉に逃げ出しました。
さすがに、しめ縄はマズかったかと思った父は「やべぇ、逃げるぞ!」と、しめ縄を放りだして逃げました。
遠くから大人たちの声が聞こえたからです。
その時、お腹が空いていた叔母さんは、こっそりと団子をポケットにしまったのだそうです。
日が暮れた道を全員無言で走りました。

「兄ちゃん、もう走れないよぉ!」しばらく走ってから、一番年下だった叔母さんがそう言うと、ようやく一息つこうと全員が足を止めたのだそうです。

「ここまで来れば、もう追いかけて来ねえだろ」父たちは、そう言う道端に腰を下ろしました。
全員の荒い息が治まってくると、叔母さんの耳に何かが近づいてくる音が聞こえたのです。
「兄ちゃん、何か来るよぉ〜」泣きそうになりながら叔母さんが父に言うと・・・
「シッ」父たちにもその音は聞こえていたようです。
「ガルルルル〜ッ ガルルルル〜ッ」という音が暗い夜道の向こうからやって来るようですga-n01.gif
「こっちに隠れよう」小声で父がそう言うと、全員が道路脇の黒々とした木々が密集するところに潜り込みました。
「ガルルルル〜ッ ガルルルル〜ッ」という音は、どんどん近づいてきます。
物音を立てないようにジッとしていると、目の前を真っ黒い大きな影が横切りました。
叔母さんには、それが何かはっきりとは見えなかったそうです。
ただ、ムッとする獣のような臭いがしたといいます。
その黒い何かは、一度通り過ぎたのですが、急にあたりの臭いを嗅ぎ回りだしたかと思うと「ガルウッ、ガウッ!!」と叔母さんに向って吠えながら突進してきたのです!!
「逃げろ!」父は、叔母さんの手を引っ張って走り出しました。

父たちは、お寺に逃げ込んだ

すると、すぐに建物があり、玄関に電灯が点いたのです。どうやら、そこはお寺のようでした。

父たちは、夢中で玄関を叩き「助けて!」と大声で助けを求めました。
すると、玄関から和尚さんが出てきたのです。
和尚さんは訳がわからず、取りあえず父たちを中に招き入れてくれました。
「お、和尚さん、何だかわかんないけど、黒い大きな獣に追いかけられたんです!」父がそう言うと和尚さんは、ともかく最初から話をするように静かに言ったそうです。
そこで父たちは、仕方なくお祭りに行ったことを話したのだそうです。
「お前たち、そこから何か持ってきたんじゃないか?」和尚さんは、尋ねました。
叔母さんは“マズい”団子を見せて、祭壇からもらってきたことを話したのです。
それを聞くと和尚さんは「お前たち、他に何か持ってきたり、やらかしたりしてないだろうな!」父たちの方に身を乗り出して聞きました。
「に、兄ちゃん、松の木のしめ縄を外した・・・」叔母さんは、和尚さんの迫力に泣きながら答えたそうです。
「お前たち、とんでもないことを仕出かしてしまったなぁ」そう言うと和尚さんは、何が何だかわからない父にこんな話を始めたのです。

 

狗神の封印を守る村

「昔々、このあたりには年に一度、富士山の方から現れては人間を喰らう化け物がおったんじゃ。ある時、旅の僧侶がこのあたりに立ち寄った際に、村人から化け物を何とかして欲しいと頼まれて、死闘を繰り広げた末にあの松の木に狗神様を封じ込めたんじゃ。そして、あの村は全員が狗神筋となって、狗神様が暴れないように毎年お供えを上げて、祭りを執り行っているのじゃ。」
「じゃあ、俺は狗神を・・・」
「そうじゃ、たぶん、あの村は今頃大騒ぎじゃろう・・・下手したら、村人全員が狗神様に喰い殺されるかもしれん。だが、あのお供えを持って来ちまったから、お前らを追って来たんじゃ」
「和尚さん、あの団子は何です?魚の内臓みたいな味がしたんですが・・・」
「お、お前、食ったのか。狗神様へのお供えを・・・ありゃ、握り飯の中に鶏や豚の内臓を入れて、それを人の血に浸して作るはず・・・」
それを聞いた父は、土間へ走っていって嘔吐したそうですhanaji02.gif
「ともかく、祭りの日には、この寺には結界が張られているから、まだ狗神様とて入ることはできん。じゃが、それも間もなく破られるじゃろう」そう言うと和尚さんは、父たちを手招きして小さなお堂に連れて行ったそうです。
「ここでお前たちは、お経を唱えながら待っていろ。わしが鐘を鳴らすまでは絶対出てくるんじゃないぞ」そう言うと、団子をお堂の入り口に置いて、自分はお堂の影に身を潜めたのだそうです。
父たちは、渡された経本を震えながら読んだそうです。
すると、またあの「グルグルグルグル〜ッ」という唸り声が聞こえてきました。
その唸り声から、お堂の周りを警戒しながら歩いている様子が窺えます。
もうお経どころではありません。全員が目をつぶって耳を塞ぎ、声が漏れないように押し殺して泣きました。
それが10分ほど続くと、突如、その唸り声は「ピチャクチャ」というものに変わったのです。
不思議に思った父は、怖いもの見たさでお堂の扉の隙間から外を覗いてみました。
すると、大きな黒い影のようなものが、夢中になって団子を食べているじゃあありませんか。ジーッと見ているうちに影のようだったものは、徐々にはっきりと姿が見えるようになったそうです。
「これが狗神???」そう思った瞬間、気配を感じたのか狗神が頭を上げてお堂の方を見ました。
そこへ和尚さんが音もなく現れて、狗神の首にしめ縄のような綱をグルグルと巻き、吠えまくる口に布を銜えさせたのです。
さらに脚を縛って動けなくすると、その身体を肩に担いで歩いていったそうです。
やがて、お寺に鐘の音が響き渡りました。
それまで怖くて目をつぶっていた叔母さんも、ようやく目を開けたそうです。
するとお堂の扉越しに和尚さんの声が聞こえました「わしは狗神様をまた封印しに行かねばならん。お前たちは、もうしばらく待ってから、そこを出て家に帰りなさい」そう言い残すと和尚さんの足音は遠ざかりました。
全員、声を上げて泣きながら和尚さんにお礼を言ったそうですnaku02.gif
30分ほど経って、ようやく落ち着いた父たち。
恐々お堂の扉を開けて、あたりに狗神らしきものがいないことを確かめると逃げるように走って家に帰ったそうです。

家に帰ると、もう12時を回っており、地元では大騒ぎになっていました。

両親からこっぴどく怒られた父と叔母さん。
ようやく布団に入ると叔母さんは、ふと父に尋ねたそうです。
「兄ちゃん、狗神様を見たの?」
「見た・・・」
「どんな姿だった?怖かった?やっぱり犬だった?」叔母さんの問い掛けに無言だった父は、一言

「人間だった・・・」

とだけ言うと黙って寝てしまったそうです。

父が見たものとは・・・

その時、叔母さんは意味がわからなかったそうですが、やがて成長してからたまたま犬神憑きの話を聞く機会があり、自分たちを追いかけてきたのは、取り憑かれた村の人だったのかもしれないと気づいたのですga-n01.gif

 

筆者が子供の頃には、すでにそのあたりには集落はありませんでした。でも、祀られているのは事実のようでした。

そして、松の木に関しては、
“その脇を通ると車の燃料計がみるみる減っていく”
“木と反対側のガードレールに吸い寄せられるように突っ込んだ”
“女の人が立っていた”
などなど、近くには大きな霊園がある場所なので、さまざまな噂が飛び交っていました。

この松の木だけ妙に内側に・・・

そして今回、筆者は久しぶりに問題の松の木を見に行きました。

昔は、道路の真ん中に待つの木があったので、すぐにわかったのですが、なかなかそれらしい場所がわかりません。
すると1本だけ松の木があるのを見つけました。
現在、その松の木は道路の真ん中にはありません。
どうやら、切るのをあきらめて、道路の方を移動したらしいのです。その証拠に、なぜかここだけ遊歩道の内側に木が植えられています。
しかも他の場所は、ほとんどがブナやナラなのに、ここにだけ松が生えているのです。

謎のモニュメントは何のために・・・

そして、その横には、イギリスのストーンヘンジのようなモニュメントが建てられていました。

まるで、何かの魂を鎮めるかのように。
いまでも狗神は、この地に眠っているのでしょうか?

あなたの近くにもアンタッチャブルな場所や不思議な風習はありませんか?

Zooooneでは、読者の方からの情報をお待ちしています。